本当に安心安全なオーガニックコスメ基準を求めて
日本オーガニックコスメ協会 水上洋子
はじめに
オーガニックコスメというと、その言葉の発祥地はヨーロッパというイメージが日本にはあります。またそのオーガニックコスメ製造技術の最先端は、環境先進国として有名なドイツではと考えられがちです。
しかし実は、今、日本は、世界的にみても、まさにオーガニックコスメ最先端国といっていい状況にあります。「日本オーガニックコスメ協会」は、その現状に基づいて、世界一厳しいオーガニックコスメ基準とJOCA推奨品マークを作り、世界に向けて発信を始めました。
日本で何故、オーガニックコスメが早くから普及したのか?
オーガニックコスメ 上手な素肌の守り方(双葉社)
そもそも「オーガニックコスメ」という言葉が最初に登場したのは、ヨーロッパではなく、まさにこの日本でした。2001年に東京で「オーガニックコスメ―――上手な素肌の守り方」(双葉社)という単行本が発行されたのですが、実はこのとき、まだ世界のどこにも「オーガニックコスメ」という言葉はありませんでした。
この単行本を製作したのは、環境NGOアイシスガイアネットでした。このNGOアイシスガイアネットを主宰したのは、清水童伸氏でしたが、彼は無添加化粧品のPR誌や日本初の環境マガジン発行を手がけたり、イベント「エコプロダクツ」を発案企画するなどの経験を持っている人物でした。清水氏は、市場に石油合成成分を主体にした化粧品が多く出回り、それが原因で、消費者の間に素肌トラブルも増え続けていたことを懸念していました。よりナチュラルで安心安全な化粧品を知らせていきたいと考え、この単行本を発行しました。そして私自身もこの単行本製作チームの一メンバーとして参加しました。
実はこの単行本の「オーガニックコスメ」というタイトルが決まるまでに、ひと悶着がありました。出版社さんの編集部は、聞いたこともない「オーガニックコスメ」という新しい言葉ではなく、「自然コスメ」というわかりやすいタイトルにしたかったのですが、環境NGOアイシスガイアネットの制作チームは、「オーガニックコスメ」は、未来を指し示すとても良い言葉で、きっとこれから流行るはずという主張をしました。結果的には、出版社さんのほうが譲ってくれ、最終的に「オーガニックコスメ」がこの単行本のタイトルになりました。
この単行本が出版されて間もなく、出版社も製作チームも思いがけないほどの反響がありました。この本に掲載された各メーカーに、全国展開をする大型ショップから次々と電話があり、オーガニックコスメの販売コーナーを作ってみたいという連絡があったのです。その後、同じような動きが他の店からもありました。その結果、日本で初めてのオーガニック&ナチュラルコスメのコーナーが日本全国で展開されることになったのです。
つまり日本のオーガニックコスメは、ビジネス的な市場調査の結果ではなく、安心安全な化粧品を消費者に知らせたいという環境NGOの良心的な活動から広がっていったのです。
2007年に私はドイツのオーガニックコスメ事情について現地取材をしました。ドイツのマンハイムにあるBDIH(ドイツ化粧品医薬品商工連盟)の代表を務めるヘラルド・デットマー氏をインタビューした際、彼が「オーガニックコスメ」なんて聞いたこともないと言ったときはとても驚きました。その頃には「オーガニックコスメ」という言葉は、世界的なものになっているという思い込みが私の中にあったのです。
しかし当時、ドイツには「ナチュラルコスメ」という言葉はあっても、「オーガニックコスメ」という言葉はなかったことがわかりました。改めて2001年に東京で発行した単行本のタイトルこそが、世界で初めて「オーガニックコスメ」という言葉が誕生させたものであり、オーガニックコスメはどこよりも早く日本から始まったことを確認しました。
ドイツの取材から日本に帰って間もなく、環境NGOアイシスガイアネットを母体として、新たに「日本オーガニックコスメ協会」が設立されました。
天然成分100%の化粧品製造技術において、日本は世界一
実は、今、日本は天然成分100%で作られたコスメが世界一、市場に多く出ています。
それというのも日本の製造者は、目標を定めるといち早く実現するという素晴らしい力を持っているからです。
「日本オーガニックコスメ協会」は、2010年、日本で天然成分100%の化粧品技術を向上させるために、「アルテ」という化粧品会社をたちあげました。消費者の安心安全性を考えると天然成分100%の化粧品が望ましいということを伝えていこうとするとき、実際にそういう化粧品が存在しなければ、単なる理想になってしまうからです。
そのために、「日本オーガニックコスメ協会」の意図に共感してくれるいくつかの製造会社と協力して、防腐剤も界面活性剤も天然成分という化粧品開発を続けてきました。その結果、長い期間はかかりましたが、完全・合成成分フリーの化粧水やクリームを実現させることが出来ました。
たとえば現在、実際にオーガニックコスメによく使われている天然の防腐剤というと、次のようなものがあります。
オーガニックコスメに使用される天然の防腐剤
- ●ローズマリーサポニン
- ●カンゾウエキス
- ●グレープ種子エキス
- ●レイコノストック/ダイコン根発酵液
- ●セイヨウシロヤナギエキス
- ●ユズ種子エキス
もちろん天然の防腐剤は、ひとつだけでは確実ではないので、いくつかの防腐剤を組み合わせることもよくされています。
いっぽう天然の界面活性剤としては、レシチンや石鹸素地などが天然成分100%のオーガニックコスメによく使われています。
従来より、化粧品は、「完全に天然成分だけで製造するのは不可能」という常識が製造会社に有り続けたのですが、しだいに「日本オーガニックコスメ協会」は、「天然成分100%の化粧品製造は可能」であると確信するようになりました。
消費者の安心安全のために、世界一厳しいJOCA基準を日本から発信
2010年より、EUからオーガニックコスメ認証基準が発信され始めました。それまで「日本オーガニックコスメ協会」は、何度か国際会議に出席し取材を重ねて、EUの認証基準の詳細を知ることとなりましたが、結果的には、疑問を抱くようになりました。
というのも、いくつかの石油由来の防腐剤や界面活性剤の使用が認められていたからです。とくに防腐剤について見てみると、EUのオーガニックコスメ基準で使用が認められている「安息香酸Na」や「ソルビン酸K」などは、日本の旧厚生省が定めていた「102種類の表示指定成分」の中に入っていた成分で、石油系合成成分です。
「表示指定成分」とは、アレルギー性があるので、表示が義務付けられていた成分です。
はたしてアレルギー性がある合成成分の使用が認められている認証基準は、オーガニックコスメにふさわしいと言えるだろうか?
そのような基準が、世界的に広がることは、結果的には、消費者のオーガニックコスメへの信頼が揺らぐことになるのではないだろうか?
そんな疑問は、やがて、むしろ日本から天然成分100%のオーガニックコスメ認証基準を発信していくべきではという結論に至りました。
2017年、「日本オーガニックコスメ協会」は、独自で天然成分100%のオーガニックコスメ基準を定め、JOCA推奨品マークを作りました。
JOCA推奨品マーク
「日本オーガニックコスメ協会」の立場は、オーガニックコスメの販売を促すという以前にまずは消費者にとって本当に安心安全なコスメを知らせていくことにあります。合成成分が入り混じったあいまいなオーガニックコスメが増えても、あまり意味がないのではと考えています。
「JOCA推奨品マーク」を作ったことにより、たとえ化粧品の成分がよくわからない消費者であっても、確実に天然成分100%の製品を選ぶことが出来るようになりました。また最近は、化学物質過敏症の方から、このJOCAマークを指標に化粧品選びをしているとの連絡を頂きました。
「日本オーガニックコスメ協会」は、JOCA推奨品マークと天然成分100%のコスメ基準を積極的に普及するために、2020年3月、単行本「ジャパン・オーガニックコスメ」を発行し、全国書店に配布しました。幸いにも現在、この本をきっかけにして、さまざまなショップから日本のオーガニックコスメを販売するコーナーを作りたいという企画や申し出が来ています。すでに銀座や代官山では、JOCA推奨品マークがついた天然成分100%のオーガニックコスメを販売するショップが登場して、話題を呼んでいます。
単行本「ジャパン・オーガニックコスメ」
おわりに
コロナ禍の期間を経て、輸送の問題からも海外化粧品の不安定さが見えはじめ、改めて国産化粧品が見直されています。「日本オーガニックコスメ協会」は、天然成分100%の国産オーガニックコスメは、世界に誇る最先端技術の結晶であり、それもまた日本の素晴らしいソフトを世界に伝えていくことになると確信しています。
水上洋子 プロフィール
一般社団法人 JOCA日本オーガニックコスメ協会 代表。札幌市出身。同志社大学・文化史学科卒業。
1980年代、作家として、女性の自立と仕事、恋愛をテーマに「恋愛以上」(角川書店)、「ハーフムーン」(講談社)、「新・女の幸福論」(角川書店)、「迷宮の月の下で」(角川書店)、「ユニコーンによろしく」(角川書店)などの著作50冊以上を執筆。その後、環境と女性をテーマにした雑誌「アイシスラテール」を発行。単行本「オーガニックコスメ」シリーズの監修を務める。
<日本オーガニックコスメ協会の活動>
2007年、「日本オーガニックコスメ協会」を設立。
2010年、「JOCAオーガニックコスメ・アドバイザー養成講座」を開設。
2012年、IFOAM(国際有機農業運動連盟)の世界会議にて、オーガニックコスメ認証基準団体「コスモス」の発表会に日本代表として参加する。
2015年、韓国で開催された「国際オーガニック産業エキスポ」にて、日本代表として、「日本のオーガニックコスメの現状」というテーマで講師を務める。
最近は、国内のオーガニックや化粧品関連の各イベントで講演をしている。