ドイツ連邦経済・エネルギー省主催
ドイツ化粧品・トイレタリー・香水シンポジウム
虎ノ門ヒルズフォーラム 2017年11月7日(火) 15:25~16:45
テーマ:「日本のオーガニック・自然派コスメ市場の現状、及び今後の行方」
講師 日本オーガニックコスメ協会代表 水上洋子
講演内容の詳細
» The version of Japanese slides
今日は、「日本のオーガニック・自然派コスメ市場の現状、及び今後の行方」というテーマでお話しさせていただきます。
日本の消費者がオーガニックコスメを支持する理由
日本では今や、オーガニック・自然派コスメに対する関心は、今や一時的なものではなく、継続的なものになっています。
雑誌でもよく特集が組まれたり、大手デパートでオーガニックコスメ専門コーナーが作られたりオーガニックコスメのイベントが開催されたり、オーガニックコスメ専門ショップも出て、売り上げを伸ばしています。
日本で、オーガニックコスメという言葉が、消費者の間で使われるようになったのは、早くも2003年頃です。ヨーロッパに比べても、その言葉が使われたのは、ずいぶんと早かったと思います。
日本でオーガニックコスメが伸びているひとつの理由は、日本人は、伝統的に自然を愛する国民であり、自然に畏敬の念を抱いていることがあります。
つまり化粧品の安心安全を追求していくと、合成成分を使っていない、天然100%の化粧品というイメージが消費者の間に形成されやすい状況がもともとあると言えます。
そのため環境保全先進国ドイツの自然派コスメは、容易に日本の消費者の間に受け入れられました。
ちなみに、消費者の期待に応えるために、早くから日本のオーガニックコスメ・メーカーもまた、天然100%でオーガニックコスメを完成させという困難な技術に取り組んできており、その技術は、今では世界の中でもたいへん高いものになっています。
オーガニック・自然派コスメの売り上げ伸び率について
さて、日本全体のオーガニックコスメ&自然派コスメの販売状況についてお話しします。
2016年、国内の全体的な化粧品の総売上高は、2015年(2兆4,475億円)に比べて、2.5%増の2兆5077円でした。
いっぽうそのうちの自然派・オーガニック化粧品の売上高は、前年度(1175億円)比べて4.6%増の1,229億円、2017年も市場の拡大が予測されています。
オーガニック・自然派コスメは、売上高の規模は、全体的な化粧品の約5%ですが、その伸び率は一般的な化粧品の1.8培と、約2倍近く高いことが示されています。その高い伸び率は、近年、肌トラブルに悩む女性が増加していることから、安全安心志向が高まっていること、そしてまた環境と共生するオーガニックなライフスタイルを好む消費者の増加などが理由と思われます。
またもうひとつ、日本の特別な化粧品分類として、「無添加化粧品」というものがあり、これも化粧品の安全性にこだわる消費者に支持されています。
「無添加化粧品」は、化粧品全体の10%の売り上げがあります。「無添加化粧品」の消費者も化粧品の成分にこだわる消費者なので、今後、この層がオーガニック・自然派コスメの購入者となる可能性が高いと言えます。
その結果、日本では今後、潜在的なユーザーになる消費者も併せて約10.5%がオーガニック・自然派コスメに関心がある層と言えます。
日本の消費者と自然・オーガニックコスメ
さてここで1960年代以降の日本の化粧品の歴史をざっと見ていきます。
化粧品の歴史をふり返ることで、日本のオーガニック・自然派コスメ・ブームは一時的な流行ではなく、今後、さらに支持する消費者が増えていくものであることがわかることと思います。
今では、「化粧品は、ムードではなく成分で選ぼう」というのが、「日本オーガニックコスメ協会」の最も重要なメッセージですが、じつは消費者が化粧品を成分で選びたくても、そうできない長い時期がありました。
というのも、1950年代から2001年の約半世紀、日本では化粧品の成分は企業秘密で良かったからです。容器や箱に化粧品の全成分を記載しなくて良かったのです。
そのため消費者は、化粧品が何で作られているのかという内容のことは知らないまま、CMやパンフのうたい文句、容器のデザインなど、つまりムードで化粧品を選ぶほかありませんでした。
ところが1970年代に「リール黒皮症」という化粧品被害が日本で社会問題となりました。「リール黒皮症」は、別名、「女子顔面黒皮症」という怖い名前です。じつは私自身もこの時期から少し遅れてのことですが、「女子顔面黒皮症」の被害者になりました。
「女子顔面黒皮症」の女性被害者たちは、大阪市で裁判を起こし、日本のメディアを騒がせました。そこであらためて日本の消費者たちは、化粧品の原料は何から作られているのかという疑問を持つようになったのです。
1980年、日本政府は、こうした日本で起きた化粧品被害を防止するために、アレルギー性の高い化粧品成分102種類を選び出しました。当時はまだ化粧品は全成分を表示しなくて良かったのですが、政府が選び出した102種類の化粧品成分が使われている場合は、それだけは、パッケージや容器に表示するようにとメーカーに義務づけました。
そのためこれらの成分は、「102種類の表示指定成分」と呼ばれました。
それまで日本の消費者は、化粧品が何から作られているのか、まったく情報がなかったのですが、ようやく一部だけわかるようになったわけです。
化粧品成分に安心安全が求められる
そのように日本の消費者が、安心安全な化粧品に関心を持ち始めたきっかけは、早くも1980年代から始まります。
日本ではその後、「無添加化粧品」というものが出てきて、急速に売りあげを伸ばしました。無添加化粧品というと、合成成分をまったく使っていない化粧品と考える人が多いのですが、そうではありません。先に述べた、日本の政府が選んだアレルギー性のある「102種類の表示指定成分を抜いたものが、無添加化粧品です。
日本では、1万種類以上の化粧品成分が使われており、その大半は、合成成分ですから、102種類の成分を省いても、それ以外の合成成分を使った化粧品を作ることもでき、それが無添加化粧品と呼ばれているのです。
無添加化粧品は2000年から2005年までは急速に延びますが、その後、無添加化粧品の伸びは止まり、代わりにオーガニックコスメやナチュラルコスメが伸び始めました。
これは消費者が、無添加化粧品にもかなり合成成分が使われていることを知るようになり、もっとナチュラルな化粧品を求めた結果と言えます。
全成分が日本で義務づけられる
ようやく2001年には、欧米にならって、ようやく日本でも全成分表示が義務付けられました。
しかし全成分表示がされたからといって、すぐに日本の多くの消費者が化粧品は、石油から作られた合成成分が多用されていることがわかったわけではありません。石油から作られた合成成分の名前が難しいしいこと、そしてその数があまりに多いからです。現在、日本で使用されている化粧品成分は、1万種類以上にもなります。
全成分表示が施行されても、コマーシャルやデザインで化粧品を買う消費者が多かったわけですが、そのことに疑問を抱き、「化粧品の成分を知って買おう」というNGO団体の活動が出てきました。
そうした活動のひとつが、「オーガニックコスメ」という本の出版となって出てきました。
オーガニックコスメという言葉は、世界で初めて日本から出てきた
日本ではもともと自然派コスメという言葉がありましたが、その後、2001年にオーガニックコスメという言葉が日本で初めて出てきました。
東京で「オーガニックコスメ」というタイトルの本が出版されたのです。この本のおかげで、「オーガニックコスメ」という言葉は、日本ではヨーロッパよりも早くその言葉が使われ始めました。
この本には、「化粧品はムードではなく、成分で買おう」というメッセージが込められていました。
この本を制作したのは、環境NGOアイシスガイアネットでした。
「オーガニックコスメ」という言葉は、この単行本のタイトルとして製作した環境NGOが造ったもので、それで誕生した造語です。2001年2月のことです。
それは今までになかったキーワードで安心安全なコスメを表現できる言葉として、環境NGOの編集チームが中心となって作り出した造語でした。
ですからこの2001年から、オーガニックコスメという言葉は、日本で初めて誕生し、そして歩き始めました。この本は、まさに日本でオーガニックコスメという考え方を普及していく上で大きな貢献をしました。
2001年は、化粧品にとって、重要なことがいろいろとあった年です。この年は、日本で化粧品の全成分表示が始まった年ですが、偶然にも、2001年は、ドイツで、世界で初めて「BDIH」がナチュラルコスメの基準を作り、実地した年です。
この「オーガニックコスメ」という本の中でも、「BDIH」がナチュラルコスメの基準についての記事が掲載されています。
そして「日本オーガニックコスメ協会」は、このオーガニックコスメという単行本を製作した環境NGOアイシスガイアネットを母体として、消費者の立場から、本当に安心できる化粧品情報を伝えるために新たに一般社団法人として設立されました。
日本オーガニックコスメ協会の活動
ここで「日本オーガニックコスメ協会」について、どんな活動をしているのかについて、簡単にご説明させていただきます。2007年に設立された「日本オーガニックコスメ協会」の活動は、世界のオーガニックコスメ認証団体、各オーガニックコスメ・メーカーを取材することから始まりました。協会の活動目的は次になります。
- 消費者の立場を優先して、安全なオーガニックコスメを普及する。
- 人と環境の美と健康を守る有機製品を普及する。
具体的活動としては次になります。日本の消費者に向けて、本当に安心安全と言えるオーガニックコスメを普及するために、本の発行、雑誌の記事掲載、セミナー、イベントの開催、オーガニックコスメ講座などの活動をしてきました。
オーガニックコスメ普及のための出版活動
「日本オーガニックコスメ協会」の消費者教育として最も重要なのは出版活動です。単行本「オーガニックコスメ」をシリーズ化し、2、3年おきに本を発行してきました。内容は、日本国内で購入できる安心安全な化粧品を紹介しています。
もともと「オーガニックコスメ」シリーズは、安全な化粧品を消費者に知らせるという目的を持って、発行されたのですが、デパートや特色のある売り場作りをしているバイヤーさんに着目されるようになりました。そしてバイヤーさんたちは、この本に掲載された化粧品を集めて、オーガニックコスメコーナーを作り始めたのです。そして今ではこの本は、「バイヤーさんの化粧品バイブル本」とも言われるまでになっています。
つまり一冊の本が、売り場を作り出し、それによってオーガニックコスメが広がっていったのです。安心安全な化粧品という情報にこだわった一冊の本から、具体的な売り場が出来、それに刺激を受けたメーカーが新たなオーガニックコスメブランドを作るという循環が生まれました。
ちなみにこの本でも、ドイツでよく知られている自然化粧品ブランドのドクターハウシュカやロゴナ、ラヴェーラ、ヴェレダが紹介されています。
おそらくアジアの中では、日本の消費者は、もっともドイツの自然化粧品ブランドについて知っていますが、それはこの本のシリーズのおかげと言っていいでしょう。
この循環がたいへんうまくいったことから、日本では早くから、ドイツのオーガニックコスメが一般の消費者の間に浸透していきました。
そのように日本のオーガニックコスメは、化粧品販売の会社やマーケティング戦略の専門家がしかけたものではなく、安心安全な製品を知らせたいという環境NGO活動から始まり、それがひとりひとりの消費者の支持を集めるという、自発的な草の根運動という形で広がっていったのです。
オーガニックコスメ講座の開催
オーガニックコスメを普及していくには、化粧品の成分に詳しい消費者を増やしていくことが重要です。何故なら、そうすることによって、オーガニックコスメがこれまでの化粧品とどう違うのか、何故、安心安全なのかを知らせ、オーガニックコスメの価値を伝えることができるからです。
つまりオーガニックコスメの普及には、消費者教育というものが欠かせません。
そのため「日本オーガニックコスメ協会」は、日本各地でオーガニックコスメセミナーを開催し、消費者に合成成分と天然成分の見分け方などについて講義をしてきました。
ちなみのこの写真は、茨城県の水戸市の高校生に、「日本オーガニックコスメ協会」の講師が教えている様子です。
また「日本オーガニックコスメ協会」は、消費者向けの通信講座である「オーガニックコスメ・アドバイザー講座」を開催しています。この講座には、日本全国のオーガニックコスメに関心がある人が受講しています。
日本の消費者は、オーガニックコスメは天然成分100%と考えている
さて日本では、消費者が、安心安全な化粧品を選ぶために、海外の認証マークを目安にしている人もいます。またいくつかの日本のメーカーも海外の認証を取得しています。日本でよく見かける化粧品の認証マークは、エコサートやアメリカのUSDAオーガニック、ときどきBDIHも見かけます。
ヨーロッパのオーガニックコスメ基準の問題点
しかしヨーロッパのオーガニックコスメ基準ですが、一部の石油系の防腐剤が使われていることで、不信感を持っている日本の消費者もおり、そのことはブログでも記事になって出ています。
たとえばヨーロッパの認証マークがついているのに全成分をみると、「安息香酸ナトリウム」が入っているのは、何故ですかという質問が、日本オーガニックコスメ協会によく来ます。「安息香酸ナトリウム」は、石油原料の合成防腐剤です。
「日本オーガニック協会」としては、それは一部の合成防腐剤が、その認証団体の基準で認められているからですよ」と説明するのですが、問い合わせてくる人は、容易に納得はしません。というのも、この「安息香酸ナトリウム」は、先に述べましたが、1980年代に日本政府が定めた、アレルギー性がある「102種類の表示指定成分」に入っているからです。
日本の消費者は、オーガニック・自然派コスメの認証マークを取得している化粧品は、石油成分は一切、使われていないというイメージを抱いているのです。またかなり化粧品の成分についても、知っている人が増えています。とくにオーガニックコスメを購入する人は、化粧品の成分についてよく勉強しています。
日本オーガニックコスメ協会のJOCA推奨品マーク
「日本オーガニックコスメ協会」は、消費者の声に応える形で、独自のオーガニックコスメ推奨品マークを作りました。
このオーガニックコスメ推奨品は、「日本オーガニックコスメ協会」が15年以上にわたって、単行本「オーガニックコスメ」シリーズを発行してきた経験と、世界の認証団体を取材してきた経験をもとにして、その基準を定め、それを普及するために推奨品マークを作りました。
「日本オーガニックコスメ協会」の推奨品マークは、天然成分100%のオーガニックコスメを使いたい人のために作られました。
「日本オーガニックコスメ協会」の推奨品マークの基準は、一切の石油原料成分をすべて使用禁止にしています。
「日本オーガニックコスメ協会」の推奨品マークは、厳しい基準を定めることによって次のことを目標にしています。
- 消費者が、100%天然成分の化粧品を選びやすいようにすること。
- 安全なオーガニックコスメを製造するメーカーの指針になること。
本当に安心安全といえるオーガニックコスメの普及
オーガニックコスメを使う日本の消費者は、次の3点を考えながら、製品を選ぶ消費者も多いのです。
- 素肌にとって安全性が高いのは天然成分。
- 温暖化の原因となり、持続可能ではない石油原料は良くない
- 合成成分は、自然界を汚染するので使いたくない。
天然成分100%の自然派・オーガニックコスメが日本の消費者から歓迎される
日本のオーガニックコスメに関心がある層は、高い環境意識を持ち、また化粧品の成分について学ぶことも熱心です。
そのため石油合成成分が入り混じったコスメよりも、やはりしっかりと天然成分100%で作ったオーガニックコスメが歓迎されることが予想されます。
日本でドイツの製品を普及していくための広報として、製品の良さや安心安全性をアピールすることに加えて、その企業が、地球環境に配慮した取り組み、たとえば再生可能エネルギー推進、森林保護、動物愛護などをアピールすることも重要です。
環境を守る企業姿勢もまた、自然を愛する日本消費者にたいへん歓迎され、それが購入につながることになります。
真のオーガニックコスメの製品作りの姿勢は、実はこの21世紀において、化粧品の分野だけではなく、ほかの製品作りにおいても求められるものです。
産業革命以来、何かを生産し、販売していくことは、ともすれば環境保全とは相容れないものという考えがありました。
しかしオーガニックコスメの普及は、地球環境と共存する製品の普及という、新時代にふさわしい方針を示すことにもつながります。
そのような真のオーガニックコスメの普及は、環境を守る上でもたいへん大きな意味があることと日本オーガニックコスメ協会は考えています。
ぜひ国境を越えて、地球環境と人にとって安心安全なオーガニック製品を普及するという共通の目標を持って協力しあえるネットワークが、環境保全先進国であるドイツの皆様と日本の間にできればたいへん嬉しいことと、「日本オーガニックコスメ協会」は考えています。
ご清聴、ありがとうございました。