ワセリンは本当に大丈夫?

現在、ワセリンは、医薬品や化粧品の原料として使われています。また医療現場では、安全なスキンケアとしてワセリンを高く評価する傾向があります。

しかし近年、ヨーロッパでは、ワセリンには「発がん性」がある物質が含まれているため、化粧品原料として使われることに問題があるという警告が出ています。

ワセリンには発がん性がある化学物質が含まれている

日本では、最近、安心安全なスキンケアとしてワセリンを推奨する声をよく耳にします。

多くの医療従事者も、肌トラブルに悩む人にワセリンの使用をすすめるようです。

しかしいっぽうでワセリンは石油精製の副産物であることを考えると、本当に安全なのだろうかと疑問視する声もあります。

2015年、ドイツの消費者団体である「商品品質テスト財団(Stiftung Warentest)」は、石油由来原料であるミネラルオイル(石油精製油)やワセリンを使っている化粧品について核磁気共鳴(NMR)分光法を用いて調査をしました。というのも従来の成分検出法(UV分光法など)では、微細レベルまで測定できなかったからです。そのため多くの化粧品会社は、ミネラルオイルやワセリンを原料として使っていても、不純物を除去しているから問題はないと主張することができたのです。

「商品品質テスト財団(Stiftung Warentest)」が行った調査では、ドイツで販売されている有名ブランド「ニベア」、「べべ」、「ラベーロ」、「ドーベ」、「ビルステックス」などのクリーム、ベビー用品、リップケア、ヘアスタイリング剤などがその対象になりました。

その結果、任意に選択したすべての化粧品に発がん性物質が見つかったのです。その発がん性物質というのは、「芳香族炭化水素類」と呼ばれる物質ですが、具体的には、ベンゼン、フェノール、安息香酸、ベンゾピレンなどの化学物質であり、これらの成分はもともと石油に含まれているもの。つまりミネラルオイルやワセリンには、石油由来の発がん性物質がかなり含まれていることが改めて確認されたのです。

人々の体内に蓄積する石油由来成分

「芳香族炭化水素類」については、以前から欧州食品安全機関「エフサ」が、発がん性があるとして注意を喚起しており、食品と一緒に体内に取り込んでしまう可能性があるリップケア用品にミネラルオイルやワセリンを使うことは望ましくないという警告を出してきました。

新たに調査を行った「商品品質テスト財団(Stiftung Warentest)」は、リップケア用品以外のクリームやヘアスタイリング剤についても、化粧品に使われる石油由来物質が皮膚からも吸収される「経皮毒」について懸念しています。

スイスのチューリッヒ州立研究所のコンラッド・グローブ博士は、長年、石油由来物質がいかに現代の人々の体を汚染しているかについて調査してきました。

「多くの人々の肝臓、脾臓、リンパ節を検査してきましたが、石油由来の化学物質が驚くような量で蓄積していることは珍しくはありません」。

「そのように体内を汚染している石油由来の化学物質は、食品、化粧品、環境中からもたらされたわけで、当然ながら皮膚もまた侵入源になっているはずです」と述べています。

博士の言葉は、現代化粧品の主原料として使われている石油由来物質は、深刻な問題を起こしている事実を提示しています。化粧品の石油由来物質が体内を汚染し、それがガンの原因となる可能性を否むことはできないのです。

大量の石油消費が生み出した環境汚染と気候変動

1859年、アメリカのペンシルベニア州で始まった石油産業は、さらに石油精製過程で出てくる余剰生産物を医薬品や化粧品原料として活用する方向へと進んできました。

化粧品は、石油由来原料によって、安価な素材で大量生産が可能になり、華やかな広告によって大量販売され、大きな利益を得られる産業として発展していったのです。
大量の石油燃料と石油製品が世界中に普及してから150年たった今、私たちは、石油由来の化学物質による深刻な環境汚染と体内汚染、さらに大気中の二酸化炭素増大による「温暖化」という問題と向き合っています。

そしてついに世界は、「温暖化」の深刻な影響を回避しようと、「脱炭素社会」を目指して動きだしています。

そんな今にあって、相変わらず医療現場で石油由来製品であるワセリンを高く評価する傾向は、もはや時代遅れになりつつある医療マニュアルに従っているだけではという批判も出てくることでしょう。そしてまた化粧品メーカーや消費者もまた、「石油由来原料は体内汚染や発がん性のリスクがある」という認識と改めて真摯に向き合うことが求められています。

様々なものを石油から作り出す弊害から抜け出そうとしている今、石油精製の副産物から得られるワセリンへの評価も当然ながら見直されるべきときに来ています。