自然療法とオーガニックコスメ

自然療法とオーガニックコスメ

肌や髪を健康に保つための天然成分のスキンケアの歴史は、人類が地上に現れたときからすでに始まっているといっていいでしょう。スキンケアは、美しさのためというより、まずは素肌やからだを健康に保つためのものでした。

もっとも古い時代の化粧品が多く発見されているのは、古代エジプトの遺跡です。

エジプトのカイロ市にある考古学博物館を訪れると、アイシャドーなどを作るための鉱石を砕くパレット、香水瓶、細工を凝らした鏡、カツラ、アイライナーが入っていた小瓶などが展示されています。それらを眺めていると、今、使われている化粧品や美容器具のほとんどがエジプトが起源だとわかります。

古代のスキンケアで注目すべきことは、化粧品は、自然療法に基づいた医薬品と等しいものだったことです。たとえばアイライナーを引くことはすでにエジプトから始まっていましたが、ただ目を美しくみせるためのものではなく、当地の強い日差しから目を保護するためと、虫や細菌から目を守るためのものでした。女性だけでなく、男性もアイライナーを使っていました。

エジプトのアイライナーは「コフ」と呼ばれ、現在でも中近東の女性たちの間で使われています。「コフ」にはいろいろな作り方があるようですが、そのひとつの製法は、殺菌作用を持つミルラやフランキンセンスの樹脂を焼いて微細なススを作り、そのススを集めたものを粘性の高いアムラと呼ばれる植物油で練ったものです。

つまり古代において、美容は医学とも結びついており、化粧品は素肌の健康を保ったり、肌トラブルを癒す薬でもあったのです。

伝統的な美容植物

エジプトの「コフ」とよく似たものとして、インドにも「カジャル」というアイライナーがあります。「カジャル」の製法は、殺菌力のあるニームやトリファラなどのハーブをギーと呼ばれる無塩バターと一緒に焼いて黒いススを作り、そのススをアーモンドオイルやココナッツオイルで練るものです。「カジャル」は、「デリィヴァリの夜」と呼ばれる11月の「一年でもっとも暗い夜」に女たちが作っていました。「カジャル」はこれもまた目を守るためのものなので、女たちだけではなく、男や子どもたちも使っています。

日本でも植物の効用を利用した化粧品がありました。「紅皿」といわれる杯に赤い色素を塗った口紅は、婦人病を予防し、血行をよくするといわれて紅花が原料でした。

つまり昔の化粧品は、そのひとつひとつの成分がからだにとってもいい植物が選ばれていたのです。

現代のメイク用品の多くが、ただ外見を飾るという機能性しかなく、肌やからだにとっていいものであるかどうかほとんど考慮していないという点で、昔の化粧品は対照的なものでした。

エジプトでよく使われてきたスキンケアのハーブをあげると、カモマイル、キク、ヒヨス、バジル、ギンバイカ、矢車草、チコリなど、今ではおなじみになっているハーブが数多くありますが、それらがヨーロッパに伝わり、医療や美容に使われ続けることとなりました。
インドの伝承医学アーユルヴェーダにもまた、からだを調整する薬用植物の知識にとどまらず、素肌や髪を美しく健康にする化粧品の知識が残されています。とくにニームはアーユルヴェーダでよく使われる植物ですが、現代の科学的データでも多くの薬効が認められています。

また日本でも平安時代には、美容法や健康法をまとめた『医心方』という書が書かれており、ドクダミ、オウバク、ヨモギなど、身近な薬草植物の使い方が記されています。

植物以外の天然美容成分について

オーガニックコスメでは、数多くの美容植物のほかに、さまざまな自然界の素材が使われています。たとえばクレイ(粘土)、無機顔料などの無機物由来のもの、ミツロウ、シルク、ラノリン、うぐいすの粉などの生物由来のものなどがあります。ここでは、オーガニックコスメで比較的よく使われている成分を選んで解説しています。

【クレイ】
クレイとは、ミネラルに富んだ粘土のことです。世界各地によってさまざまな種類があり、住宅用として、そして美容素材として使われてきました。一般にクレイは、肌のデトックス作用にすぐれており、肌のくすみをとったり、毛穴の汚れを除去するのに適しています。洗顔石けんやクレンジングなどに配合されたり、あるいは水に溶いて、フェイスケア、ヘアケア、ボディケアとして使われます。
▼クレイの例

カオリン:
白色で、天然に産する花崗岩が風化するうちにガスを吸収して変化したものと言われています。パウダー類に配合するとツキをよくしてくれます。乾燥肌のケアにも適しています。
ベントナイト:
天然のコロイド状の粘土で、大量の水を吸収する性質があります。化粧品には、乳化剤、粘結剤などの目的で配合されており、クリーム、乳液、パックなどに配合されます。乾燥肌のケアに適しています。
マリンクレイ:
太古より海底や湖底に堆積した動植物の分解によって出来たクレイです。灰白色から灰色。肌の汚れを吸着する効果にすぐれており、クレンジングやパック剤にも使われています。福島県でとれる「タナクラクレイ」も、このマリンクレイの1種です。

【無機顔料】
オーガニックコスメのメイク用品では、タール系色素ではなく、ベンガラ、酸化鉄、グンジョウ、酸化クロムなど無機顔料が多く使われています。もともと無機顔料は、天然に産する鉱物を粉砕して作られていましたが、不純物を含むことが多いことから、現在は、合成による無機化合物が使用されています。

【そのほかの顔料】
そのほかメイク用品の基材パウダーやパール感としてよく使われているものとして、タルク(滑石)、マイカ(雲母)、シリカなどがあります。「白色顔料」としては、酸化亜鉛、酸化チタンなどがありますが、酸化チタンは、紫外線吸収効果があるので、オーガニックコスメではUVケアクリームに使われています。赤い色素としては、昆虫エンジムシから得られるカルミンがあります

【みつろう】
蜜蜂の巣からとられるミツロウは、オーガニックコスメには欠かせない素材です。 ミツロウはバルサム状のクリームやリップスティックに使われます。ミツロウのほかに、ルージュの硬さを作るのに適した天然ロウとしては、カルナウバロウ、キャンデリラロウなどがありますが、これらは植物からとられたものです。一般の化粧品の場合は、石油原料のワセリンや固形パラフィンがロウとして使われ、リップスティックなど硬度を求められる形状に使われています。

【シルク】
シルクパウダーやシルクローションとして使われています。シルクローションは皮膚を柔軟にし、保湿力を高めます。また最近はシルクの紫外線吸収効果も注目されています。養蚕のシルクは、紫外線A波をカットしてくれます。いっぽうヤサンシルクは、紫外線A波もB波もカットすることができることがわかっています。ただし加水分解したシルクは、ただのアミノ酸になっているので、UV効果はありません。