日本のオーガニックコスメ事情

2001年1月25日に「オーガニックコスメ」が発刊されました。この日が、日本で初めて、いや、世界で初めて「オーガニックコスメ」という言葉が、世の中に出た日となりました。

最初の単行本「オーガニックコスメ」に掲載された日本のメーカーをいくつかあげると、『アンティアンティ』、『美容文化社』、『リマナチュラル』、『クレコス』、『両羽紅花研究所』、『私の部屋』、『太陽油脂』などがありました。

その後、「オーガニックコスメ」はシリーズになり、第二号は2002年(4月)、 第三号は2003年(5月)、2006年(12月)に第四号、2008年(5月)に第五号(タイトルは「オーガニックコスメ厳選303」)、そして2013年4月に第六号が発行されました。

この「オーガニックコスメ」シリーズは、消費者に安全な化粧品を知らせると同時に、新たな日本のコスメメーカーが次々とたちあがるきっかけも作りました。

日本の植物療法を活かした化粧品メーカー

第一回目の単行本「オーガニックコスメ」の中で、もっともユニークな化粧品は、『両羽紅花工芸所』の紅皿でしょう。

この紅皿を作っているのは、山形県在住の染織家である新田克比古さん。新田さんは、売るというより、日本の文化を守りたいという使命感で紅皿の技術を復活させたのです。最近では生産が間に合わないほどになりました。

ほかにも「オーガニックコスメ」シリーズでは、伝統的な日本の化粧品が多く掲載されています。

岡山県の『美容文化社』のぬかの洗顔料、富山県の『私の部屋』のへちま化粧水、久賀島で作られる椿油などです。どれも容器はおしゃれとは言いがたいのですが、中身は天然成分100%。日本女性の肌は世界一美しいと称賛された昔は、そんな化粧品だけが使われていたのです。

そのほか、長野県の万能薬だったオウバクの化粧品を作っている『ベニヤ』や、生薬にこだわる広島県のメーカー『漢萌』も、伝統的な日本の植物療法から生まれた化粧品です。

『漢萌』の化粧品は、平安時代の美容料を復活したもので、古式製法を守っている。広島県の工場に取材で訪れると、生薬をつけこんだ甕がずらりと並んでいました。「まるで酒作りのようでしょう。活きている化粧品ですよ」と、開発者の三戸唯裕さんは言いました。

伝統的な食べ物が見直されているように、伝統的な化粧品も現代に蘇らせようという意気込みも、「オーガニックコスメ」という言葉には託されているのです。

メイク用品も天然成分100%を目指す

NGO『アイシスガイアネット』は、以前から日本のメーカーに100%天然のメイク用品を作ってほしいと提案してきました。

第四号目の単行本「オーガニックコスメ」では、ようやくその提案に近いメイク用品を作るメーカーが出てきました。

そのメーカーは、リキッドファンデーションに「水添レシチン」を使っているほかは、すべてのアイテムについて、天然成分100%といっていいメイク用品を開発したのです。これまでメイク用品は、どうしても化学成分が必要との常識がありました。

たとえばドイツには知名度が高い自然化粧品メーカーが多いが、それらのメーカーでさえ、ファンデーションは、合成の乳化剤を使用せざるを得ないという現状があります。つまり日本では、その常識を突破したと言えます。

続いて『クレコス』というメーカーも、乳化のための「水添レシチン」以外は、天然成分100%というリキッドファンデーションを開発しました。

おそらくこれからの日本では、「オーガニックコスメ」メーカーがメイク用品も100%天然で作ろうと、いい意味での改良競争が盛んになることが予想されます。

そういう意味では、自然派化粧品という分野において、日本は世界一といっていい水準に達しようとしているといえるかもしれません。自然派化粧品というと、今は環境運動が盛んなドイツのメーカーが有名ですが、やがて日本も世界に発信できるメーカーが数多く出てくるに違いありません。

環境保全をしながら天然の化粧品作り

「石けん運動」を始めた消費者の声に応えて、製品を作り続けたメーカーの化粧品も「オーガニックコスメ」には掲載されています。たとえば『太陽油脂』も、戦後、多くの石けん会社が合成洗剤メーカーへ変わる時代に反して、石けん製品を作り続け、後に化粧品も作り始めたメーカーです。『太陽油脂』は、合成界面活性剤の不安を知る消費者の勉強会にも参加しています。

山形県には、『ハーブ研究所スパール』というメーカーがあります。設立者の山澤清さんは、若いときは農薬の指導員として働いていたが、まったく虫がいなくなった田畑に不安を抱き、会社を辞めました。その後、地球環境と調和する仕事を作り出そうと、無農薬ハーブの化粧品を販売する『ハーブ研究所スパール』をたちあげたのです。そんな風に日本の「オーガニックコスメ」メーカーは、環境保全を重要視しながら製品作りをしているところもあります。

海外のオーガニックコスメ事情

環境先進国ドイツの自然化粧品メーカー

海外においてオーガニックコスメがとくに脚光を浴びている国と言えば、やはり環境先進国ドイツです。

ドイツは、1980年代の終わりに「緑の党」が連立政権の座について以来、国全体が環境について前向きな姿勢をとってきました。その影響は、食品はもちろん、化粧品にも及びました。

現在、ドイツでは、世界的にも知られつつあるナチュラル&オーガニックコスメメーカーが躍進を続けています。いくつかの例をあげると、ドイツ最大の自然化粧品メーカーとして知られる「ドクター・ハウシュカ」、これに続いて「ラヴェーラ」、「ヴェレダ」、「ロゴナ」、「プリマライフ」、「タウトロッフェン」、「マルティナ」などがあります。これらのメーカーは、2001年からスタートした「BDIH(ドイツ医薬品と化粧品商工企業連盟)」の自然化粧品の基準作りにも参加しています。自然化粧品について公の基準ができたのは、このときが世界で初めてのことでした。

2007年に、アイシスガイアネットは、マンハイムにある「BDIH」本部を訪れましたが、会長のヘラルド・デットマーさんは、「当初、『BDIHの自然化粧品の基準を充たす』として参加したメーカーは、16社でしたが、今では参加企業は、アメリカやオーストラリアにも広がり90社を超えようとしています」とのことでした。

化学者ではなく、ハーバリストが作る自然化粧品

アメリカでは、よく知られている自然化粧品として、まず「オーブリーオーガニクス」があげられます。このメーカーは、1967年にハーバリストのオーブリー・ハンプトンによって創設されました。また一人の主婦がたちあげた「クリエーションプロダクツ」も製品数は限られながらも、その手作り感が消費者から支持されています。そのほかアメリカでは数多くの新たな自然化粧品メーカーが生まれ、育ちつつあります。

イタリアでは、あらたなオーガニックコスメメーカーとして注目されているのが「アポディア」です。こちらのメーカーは、厳しいデメター認定をとっている製品ですが、クリームの乳化のために「イナゴマメエキス」を使うなど、天然成分へのこだわりをきわめています。

もちろんもともと化粧品産業が盛んなフランスでもオーガニックコスメへの関心は高まり、「ビオコスメ」などの認証をとるメーカーが出てきています。またもともとエッセンシャルオイルを販売していたメーカーが化粧品を作り始めるという例もあり、たとえば「ヴィアローム」などがあります。このメーカーは、プロヴァンス出身で自然療法家のネリー・グロジャン博士が設立したものです。

「オーブリーオーガニクス」の創設者であるハンプトンは、安全性を考えるのなら「化学者ではなく、ハーバリストが化粧品を作るべきだ」と主張してきました。たしかにその言葉のとおり、総じて世界の自然化粧品メーカーを眺めてみると、自然療法や伝統療法を研究するハーバリストによって設立されたところが多いことも興味深い事実です。

ドイツはもともとハーブ療法がさかんな国であり、化粧品に配合されたハーブの効果についても、医薬品とほぼ同じような表現が認められています。このあたりは、「薬事法」によって、化粧品に使われるハーブの効果を言うことが規制されている日本とはかなり異なる状況です。

アジアやアフリカ、中近東の伝統的な自然化粧品が見直される

アジアや中近東では、伝統的な自然化粧品が今でも使われており、それが現代の視点から見ると、素晴らしいオーガニックコスメと言えるものがあります。たとえば中国の漢方やインドのアーユルヴェーダなど、医学の知識を活かした伝統的なスキンケアがあります。

いくつかの具体的な例をあげるとトルコやシリアでは、昔ながらの製法で造られてきたオリーブ石けん、モロッコのガスールクレイやローズ水、アフリカのシアバター、インドのカジャルや美容オイルなどがあります。これらの地域ではこれからも昔ながらの自然化粧品が多く再発見され、その価値が見直されていくことが予想されます。