石油原料とコスメの歴史
石油由来のワセリンが医薬品や化粧品に使われる!
アメリカで初めて油田が発掘されたのはペンシルベニア州です。それは1859年のこと。
この油田には石油で新たなビジネスチャンスを得ようと全米から投資家が集まってくるようになりました。
1870年、ここを訪れた科学者ロバート・ケスローもそんなひとりでした。彼は、石油の掘削機に付着していたゼリー状のものに着目して、それを精製してワセリンを作り、特許をとりました。ケスローは、このワセリンを、擦り傷、火傷、切り傷の軟膏として売り出しました。
当時の医者たちはこの新しいクリームの効用については懐疑的でした。
「ワセリンは火傷に塗ると、熱を帯びてかえって悪化する」、「ワセリンは、汗腺をふさぎ、皮膚呼吸を妨げる」「皮膚に対して何の効用もない」などという警告が出ていました。しかしそんな危惧にもかかわらす、ワセリンは、消費者たちの間に受け入れられ、「万能薬」として広がっていったのです。
第二次世界大戦中、ドイツの海軍では、ワセリンが日焼け止めとして使われていました。
1934年には、日本で新しい合成界面活性剤とワセリンを使ったクリームが売り出されました。ただしワセリンを使った安価なクリームが日本で一般的に使われるようになったのは、第二次世界大戦後の1950年以降のことでした。
石油から作られた化粧品が普及し始める
1920年から1930年にかけて、アメリカで、ハリウッドの映画用に、石油を原料とするメイク用品が作られるようになり、やがてそれは世界中に普及していきました。
最初のうちは、合成成分の化粧品はまさに科学がもたらした豊かさそのもののように思われていました。
そのいっぽうで、母から娘へと伝えられてきた美容法や美容品は、多くの女性たちも古くさくて価値のないものと見るようになり、忘れ去られていきました。ナチュロパシー(自然療法)に関心を抱くことは、わざわざ科学の進歩に背を向け、迷信を信じるに等しいことでした。
石油を原料とした合成成分を使った化粧品が急速に世界中に広まった理由は、安価で大量生産がしやすかったためです。
化学物質は、保存期間が長く安定した化粧品を実現したのです。最初のうちこそ、腐らない化粧品は、つけ心地も良く、何の問題もないかに見えました。
日本で最初に合成シャンプーができたのは、1955年のこと、以来それが一般的なヘアケア用品として普及していきました。
また翌年には、新しい合成界面活性剤を使った親水性タイプのクレンジングクリームが登場しました。